2026年9月16日から18日に岡山大学で開催された「ヒューマンインタフェースシンポジウム2026」に参加し、「ドライバー中心設計からパッセンジャー中心設計へ」というテーマで討論発表を行いました。参加と論文投稿は、2013年以来です。
現在ボクが取り組んでいる、自動運転モビリティサービスの乗客体験。その開発で生まれた疑問を、研究として整理する機会になりました。


ドライバーから乗客へ
従来の自動車のHMIは、ドライバーの判断や操作を支援するものでした。一方、レベル4の自動運転では、乗客が「車両はいま何をしているのか」を理解するための情報が必要になります。
この変化は、「Passenger-Centered Design」シリーズ(#1: Background、#2: Experiments、#3: Looking Ahead)でも整理しています。発表ではさらに、乗客が表示された情報をどう解釈するかに注目しました。
乗客は「見る」だけでなく「確かめていた」
乗客向けの「Passenger App」は、周囲の交通参加者や走行経路、信号、停止理由を伝えるインタフェースです。実装と同乗観察を通じて、乗客が画面と現実を照らし合わせる姿が見えてきました。

- 窓の外の車両が画面に出ていないと、車両が認識できていないのではと疑う。
- 目的地を選んでもすぐに発進しないと、「なぜ動かないのか」と感じる。
- 停止理由の説明が状況と合わないと、セーフティドライバーに確認する。
ボクたちは「見てもらう」つもりで設計していましたが、乗客は情報の正しさを確かめていたのです。表示の制約や処理の待ち時間も、車両そのものへの評価につながっていました。
可視化が信頼につながるとは限らない
情報を増やせば安心や信頼が高まるとは限りません。多くの車両が正しく表示されても、一台の表示漏れが気になることがあります。可視化は、現実との食い違いを生む機会も増やします。

大切なのは、能力や限界に見合った「適切な信頼(Appropriate Trust)」です。情報を網羅するより、乗客が理解できる内容と粒度を選び、状況を説明すること。これは、AIを使うほかのインタフェースにも通じる課題だと感じています。
パッセンジャー中心設計に向けて
乗客の理解や解釈を起点にする考え方を「Passenger-Centered Design」として提示しました。ただ、人間中心設計と異なる新しい方法論なのかは、まだ答えを持っていません。
乗客には窓の外の景色や車両の動きなど、画面とは別の情報源があります。その前提から、次の問いを提起しました。
- 画面と現実の食い違いを、どう説明するか。
- 人が同乗しないサービスで、説明や応答をどう補うか。
- すべてを表示できない限界を、どう伝えるか。
実務から研究へ
設計したものの紹介にとどまらず、現場で起きたことを振り返り、共有できる問いにする。ボクにとって、大きな意味のある経験でした。
座長は、以前からお付き合いのある安藤昌也先生。久しぶりにお話しでき、企業のAI導入事例にも似た課題があると示唆をいただきました。会場では、アクセシビリティの推進に取り組むユーディットの関根千佳さんとも意見を交わせました。
質疑応答も活発で、フライトシミュレーションの研究開発における共通の課題や、通信キャリア企業での研究開発と実サービスのギャップについて議論できました。
ほかのプログラムでは、自動運転バスの受容性、ドライバーの判断時間、AIの解釈を人が検証・修正するインタフェースなどの研究を聴講。異なる分野から、ボク自身の取り組みを考えるヒントをたくさん得ました。
今回の発表は、ひとつの答えというより、実務から生まれた問いを研究につなぐ出発点です。これからも乗客体験を軸に、実践と研究を続けていきたいと思います。





















