8月23日、HCD-Net (人間中心設計機構) 主催のワークショップセミナー「ユーザビリティ評価」の第6回に登壇しました。今回は、グリーの村越さんと二人で担当することにしました。午前中に講義をし、午後にワークショップという流れでした。
全7回のうちすでに五回は終了しているため、どういう講義内容がいいのかはじめ悩んでおりましたが、これまでの講義・演習資料などを拝見させてただいたところ、ユーザビリティ評価についての知識からテストや実査までひととおり終わっているので、UXデザイン寄りのテーマからボクのほうでお話をし、ゲームデザインの現場で日々テストに取り組んでいる村越さんのお話をすることにしました。
ユーザビリティ評価の課題
「ユーザビリティ」という言葉は、10年以上も前から Web のビジネスで使われており、Google Trends での推移を見てみると、2009 年ごろから下降気味になっています。2009年ごろは「ユーザビリティ評価ランキング」というのが多かった時期というのもあり、これを改めて振り返ってみようという構成にしました。
最近では「ユーザビリティ」より「UX」という言葉のほうがよく聞くようになったことと、Webサイトのユーザビリティ評価ではなくWebブランド調査の一貫でWebサイトが対象に含まれるという背景を話しました。つまり、プロダクトにおける価値からマーケティングにおける価値の尺度になってきているのだと思います。
また、デバイスごとのユーザビリティ上の課題としては、ニールセンの「Tablet Usability」でも明らかなように、ジェスチャーの課題 (Gesture Problems) やタブレットデバイス上の操作に関する課題をお話しました。そうしたユーザビリティを考慮し向上させるには、どのようにすればいいのか。その解決策としてUXデザインをお話しました。
ちゃちゃきさんのブログ「デザインするレイヤーの話とUXDの話」をご紹介し、UXデザインの3階層とからめてお話ししています。UXデザインの3階層とは、サービスデザイン・アクティビティデザイン・インタラクションデザインとで3つの階層で整理した概念図です。あと、保坂さんのブログからUXタイムラインとUXタイムスパンを合成した時間軸と取り組みとのマッチングをご紹介しました。モバイルの利用者をとらえるためには、ユーザーの利用状況の理解と時間軸でのインタラクションが重要といえます。
ケーススタディとしては某プロジェクトを紹介し、インタビューを経て精緻化したペルソナとシナリオ開発のUX評価と、シナリオに沿った動きをプロトタイピングでのテストをご紹介しました。社外秘になるため、この部分は公開スライドからは省いています。
最後に、ユーザビリティからUXへの変遷として象徴的なエピソードとして、2012年にそれまで「UPA: Usability Professionals Association」としていた協会名を「UXPA: User Experience Professionals Association」に改名したエピソードをお話しました。
ゲーム開発におけるユーザーテストの取り組みについて
村越さんの講義は「User Testing for Mobile Games.」というもので、グリーの社内での取り組みをご紹介いただきました。残念ながら社外秘の情報満載のため公開はされていませんが、いくつか個人メモからポイントを整理してみます。結果として、現場のコミュニケーションが促進され、議論の場としても機能しているそうです。
- ユーザテストを行う環境づくりは自前で作る「DIY」
- 運営フローの仕組化、数日のうちにテスト実施・課題整理・共有までを行う
- チェックポイントの仕組化、テスト要件の定義を行う
- 意識共有、認識共有、課題の再認識が行える
個人的に一番記憶に残ったのは、ゲームのユーザーテストのタスク設計のポイントに「タスクが目的ありきではない」というものでした。
たとえば、ドラクエ(ロールプレイングゲーム)をしているときは、プレイヤー(勇者)にタスクを与えるのは王様やエピソード上の依頼(クエスト)になります。したがって、極論を言うとプレイヤーが自分の目的でゲームをしているという捉え方が難しくなります。そうすると、ジャーニーマップに体験をマッピングしようとした場合、時間軸としてのステージやストーリーは、プレイヤーのジャーニーよりもゲーム上のストーリーのほうが主になってきます。プレイヤー(勇者)は王様からクエストをもらい、エピソード上のイベントに参加し、クエストを達成すれば終了という具合に。
このあたりはボクもたいへん興味深く聞いていました。もう少し突っ込んだ話をどこかで聞ければと思います。ゲームに関しては最近読んだ本に「Game Development Essentials: Game Interface Design」という本もがあります。こちらはゲームインターフェースデザインについて深堀りした本です。
また、レベル(バランス)に関して慎重にデザインしている点も興味深かったです。UI・世界観・ゲームモデルといった各レイヤーごとの課題と、その効果・効率・満足度との関係性について詳しく聞くことができました。とくに「競争と対立」という言葉は、ふだん企業のサービス開発に関わっている自分からすると馴染みが薄い言葉ですが、ソーシャルメディアでのエンゲージメントにも応用できる概念だと思いました。
最後に、「興味あること」としてご紹介いただいた脳波を使ったシミュレーションは、先日参加できなかった UX Tokyo Jam 2014 のセッションでもお話いただいたことらしく関心を持ちました。
ワークショップ
午後からのワークショップは、見学者も合わせて10チームで行いました。ユーザビリティ評価を実践するうえでのUXデザインのアプローチというテーマで、ペルソナ開発・ジャーニーマッピング・プロトタイピングを実施しました。はじめに「これまでで最悪だったアプリ」をアイスブレイクで紹介し合い、その中から対象アプリを選定して決めました。
ペルソナはその最悪だった発言者にあたるため、チーム内でのインタビューを行いペルソナ化を進めていきました。ペルソナは、顔(イラスト)・プロフィール・利用における背景(コンテクスト)で整理していき、各自が付箋でプロットしていくカタチをとりました。
ジャーニーマッピングは、具体的にどういう行動の中でどのように感じたのかを付箋でマッピングしていきました。横軸に、利用前・利用中・利用後として、縦軸は、行動・感情のみとして感情曲線は省きました。その中からフォーカスする課題を決めて、プロトタイピングをスケッチしていきます。ある程度できあがった段階で、一次フィードバックとして他チームの方が評価し、その評価をもとにチーム内にフィードバックをしてブラッシュアップしていきました。
最終的には、以下のような改善を加えたアプリをプロトタイピングで発表していただきました。
- メッセンジャーアプリ: 通知と終了の課題を表現方法の提案で解決する
- 乗り換えアプリ: 何度も調べ直す課題を経路の保持と再検索のしやすさで解決する
- 家計簿アプリ: 品目選定や表現の課題を、グラフの豊富さや品目の充実で解決する
- メール同期アプリ: 同期やUIの課題を、ステータスの表現とデザインで解決する
- 外食アプリ: 繰り返し利用の課題を、条件の固定や余計なステップ減で解決する
- 酒造ゲームアプリ: 操作性の課題を、チュートリアルとUIのフォーカスで解決する
- 音楽ゲームアプリ: チュートリアルとローディングの課題を、見直し解決する
- ストレージアプリ: 利用プロセスとボタンの課題を、プロセスとUI改善で解決する
ゲームについては午前中の村越さんの講義とも重なり、チュートリアルや画面上の課題が具体的に議論できた点がよかったです。ただ、本来の価値と、ステップ減などで得る特典(価値)とのバランスが重要な点は目からウロコで、エサとしての特典目当ての利用者に対しては一時的には有効ですが、長期的なブランド価値にはつながりにくいので、その点はやはりバランスを考える必要がありそうです。
まとめ
今回「ユーザビリティ評価」をテーマにしたセミナーイベントでしたが、これまでの五回分の内容とは異なり、UXデザインからの「俯瞰」とゲームのユーザテストにおける「実践」という2点において、かなり内容の濃い一日になったのではないかと思います。
ただ、対象アプリが既存のものがある状態でしたので、どのチームも比較的実現できそうな改善案にとどまっていた印象でした。やはり前提条件に既存の延長とさらなるアイデアを議論してもらったほうが有意義だったかなと思いました。そのあたりは次回にでも深めることができればと思います。
懇親会では、さまざな方とお話しすることができ、4月に東北セミボラでもご一緒した上平さんも合流して、最後までUX居酒屋 (どこ) で楽しむことができました。
また、11月にはサービスデザインのワークショップでも去年に続き浅野先生をヘルプする立場で参加すると思いますので、参加される方はぜひよろしくお願いします。