2017年5月18日、神戸で開催した「アクセシビリティの祭典」に参加してきました。この日は「Global Accessibility Awareness Day」ということで、毎年行われているイベントで、今回は第三回目ということもあり参加者も100名以上とたいへん盛況なイベントでした。メモを頼りに振り返ってみたいと思います。
神戸市ホームページの取り組み
リリース当初から Bing 風の検索窓しかない自治体サイトとして話題になった神戸市のホームページ。広報課の中務さまや関わった方々からの説明や背景を聞くことができました。当初から、検索向上・情報発信力・デザインの向上をねらったリニューアルとして、「デザインの神戸」を発信していく姿勢で取り組まれていたこと、そしてその取り組みは市民の評価をもとにされているという点が印象的でした。
- トップページの検索キーワードのサジェストはサイト内検索をみて調整している
- 市民評価として、リリース前(デザイン検討時・CMS実装時)に行った
- トップページの方向性には2通り(能動的⇔受動的)あるとのこと
- 検索窓だけだと「6000円」だけのキーワードをうまく誘導できない問題
- 「みんなの公共サイト運用ガイドライン」の適用を2019年までに実施予定
- 10万ページを一気に「AA準拠※」できないため、3万ページを徐々に適用する予定
- 外部サイトも適用範囲のため、関連サイトの調査からはじめる必要がある
- 現在地よりも継続性が評価される
※「AA準拠」とは、JIS X 8341-3:2016 のウェブアクセシビリティ適合レベルを指す。
LIVE ユーザビリティテスト
実際に被験者に支援ツールを使っていただくライブテスト。インフォアクシアの植木さんがインタビューアーに神戸ライトハウスの澤田さんが被験者で行いました。支援ツール「NetReader」を使って、実際に検索するところを実況中継してもらいました。「検索を検索している」まさにそういった印象を持ちました。
- U-Site、「ユーザビリティテスト5つのポイント」から必要性を解説
- 音声ブラウザはいつもは最速で使い、読むというより単語を飛ばす感じ
- 曜日を一文字で使うと「(土)」が「ツチ」とだけ出力されるが気にしない
- テストは「難易度(高・中・低)」と「タスクの達成度」で測る
関連記事
マシンリーダブル = アクセシビリティ
「JIS 8341-3」の改定により、「ウェブアクセシビリティは福祉の1つ」だと主張されるバスタイムフィッシュの村岡さんとアイ・コラボレーション神戸さんのセッション。現在、ウェブの参加者(利用者)は、ヒューマン(私、あなた、高齢者…)が中心にあるが、そのほかにもマシン(支援ツール)そしてマシン(AI・ソフトウェア)がいることから、マシンリーダブルがより重要になる点を強調されていたと思います。
- ウェブ技術の性質(オープン性など)をとらえる必要がある
- ヒューマンリーダブルであり、マシンリーダブルである、この順序で考える
- 相互運用性「Interoperability」がキーワードである
あなたの価値を高めるWebアクセシビリティ
名古屋のイベント「WCAN 2016 Winter」でもご一緒したことのあるBA伊原さんのセッション。「コーダー白書 2016」「Webデザイナー白書」を用いて、身につけるスキルとして認知されている一方、そもそもアクセシビリティとは何なのかが理解されていない点をふまえて、細かく解説いただきました。
- アクセシビリティは、UXの一部でありベースである(UXハニカム)
- Webであることが、そもそもアクセシブルである
- アクセスして何にアクセスするのかが本来の価値(目的)につながる
- 使えるかどうか(ユーザビリティ)として捉えることができる
- テキストは(コードの前提でもあり)インターフェースの基本である
- ユーザビリティ=アクセシビリティという視点
- マシンリーダブルとヒューマンリーダブルの境界がウェブアクセシビリティ
最後に「(アクセシビリティは)売りにつながるか?」という質問には、キヤノンの例をもとに、コスト低減につながり利益に貢献する点をご説明いただきました。
関連記事
私たち企業がアクセシビリティに取り組む理由
スポンサーである5社から取り組みを簡単にご紹介いただきました。
- サイバーエージェントでは、アクセシビリティに取り組みを社内評価制度にまでしている(佐藤さん)
- サイボウズは、「製品にアクセスすることで何にアクセスするか?」をすべて「チーム」として取り組んでいる(小林さん)
- ヤフーでは、企業理念からアクセシビリティを基本品質としてとらえている。共感性と持続性を重要視しているとのこと(中野さん)
- FONTPLUS からは小田原市と三井不動産のサイトの例をもとに「Web フォント」についてご紹介いただきました「文字がこれからも主人公になる」と(関口さん)
- アルファサードでは「Web をよくする」ビジョンをもとに、アクセシビリティ関連の拡張機能(ColorTester/ColorQuest)の開発背景を紹介(野田さん)
「こういうことをするのが好きだ」という野田さんの素直な言葉もそうですが、各社に共通しているのは企業理念からすべてきている点、これが強いから「アクセシビリティ」に関する取り組みもブレなく取り組めるのだと思います。
関連記事
- CyberAgent が目指すマスメディアとアクセシビリティ
- サイボウズはアクセシビリティになぜ取り組む?どう取り組む?
- 私たち企業がアクセシビリティに取り組む理由 #accfes
- アクセシビリティの祭典 | Webフォントお役立ち情報 | 関口浩之
- アルファサード株式会社はなぜアクセシビリティに取り組むのか
WAI-ARIAの正しい使い方~あるある?
「ブルゾンちえみ」のオマージュ (?) からはじまった SAWADA STANDARD DESIGN の澤田さんと D2D (D2Draft) 勉強会の方たちのセッション。「WAI-ARIA ※」の使い方やよくある失敗例をご紹介いただきました。
その中で印象に残っているのは、画像がテキトーなもの(たしか大仏)に変わったことではじめて気づく「意味のある画像だったのか」という視点です。装飾とデザインの違いについて、アクセシビリティの文脈でキレイに見えた気がしました。解決策が「ALT」というのは少し拍子抜けしてしまいましたが (笑)、ALT の大切さは痛感することができました。
関連記事
※WAI-ARIA は、Web Accessibility Initiative – Accessible Rich Internet Applications の頭文字であり、HTML や SVG で利用できるアクセシビリティ確保のための属性の仕様です。
話題の技術とアクセシビリティ
「情報をアクセシブルにすること = オープンにすること(公平に扱うこと)」を念頭に、IOT や AI(人工知能)のある現在を考える機会になりました。手の震えを抑えるプロダクトの開発は、支援ツールの未来を見させてもらって印象深かかったです。
- WIRED: 人工知能は「機械同士で会話する」独自の言語を覚え始めている
- グラスに音声出力で説明を加える弱視向けスマートグラスの開発事例「Microsoft Cognitive Services: Introducing the Seeing AI project」
- パーキンソン病への対応ブレスレット「Project EMMA」の開発事例「Build 2017: Project Emma」
- マシン⇔人と、双方が双方を理解すること(アクセシブルにつながる)
- シフト・レフト(よりプロセスを上流に、方針に関わること)
- マルチ・モダリティ・アーキテクチャ、五感を再構築する取り組みが見直される
関連記事
トークバトル60分一本勝負「アクセシビリティ vs IA/UX」
昨年の祭典でも「UX」に触れていたことから実現したトークバトル。ミツエーリンクスの木達さんを相手に、レフェリーをBAの伊原さん、ゴングコールを植木さんという布陣でのぞみました。当日まで木達さんとは話をしてはダメだと言われていたので (笑)、本当に「スジナシ」で行いました。いろいろ話していたかと思いますが、記憶に残っているトピックは以下のようだったと思います。
- 「UI/UX」に「IA」も「アクセシビリティ」も含まれているのではないか?
- 「アクセシビリティ」は全員が考えることか、担当者が考えることか?
- U-Site の「設計品質と利用品質」で説明ができるのではないか?
- 「アクセシビリティ」という言葉を使う必要はないのではないか?
- アクセシビリティに取り組むことは投資? 永続性への対応になるのでは?
- アクセシビリティ対応は「統一」ではなく「一貫性」が大切ではないか?
「UX」がつくのは単にカッコイイからでは、と言ったと思いますが、やはり表層や結果に対しての言葉のように受け取れます。なので「IA」や「アクセシビリティ」は本質や進め方(つまりシフトレフト)に対する言葉なのではないかと思います。
グランドフィナーレ「アクセシビリティQ&A」
図らずもボクも前に座らせていただいたのですが、いくつか参加者からの質問を聞くことができました。やはり「アクセシビリティ」への対応についての意見や質問が多かった印象で、それを聞きながら自分の考えも整理しながら聞くことができました。以下のような質問があったと思います。
- 古いガイドラインをもとに指示を受けている場合がある
- パートナーとアクセシビリティ対応について意思疎通がうまくいかない
- 受託側でシフトレフトができるのか?
まとめ
インフォアクシアの植木さんから直接お声がけをいただき、参加することができた本イベントは、展示ブースも含めたいへん多くの方が参加されていました。個人的にも知った顔がチラホラいましたし (笑)。そういう意味でも、国内で唯一のアクセシビリティの大規模イベントだと痛感することができました。そんなイベントに参加できたことが本当にうれしく思います。
今回のイベントは「WCAG 2.1 のリリースおよび IoT や AI の潮流をキッカケに、(アクセシビリティにおける)マシンリーダブルを再考することにつながっている」という大きな気づきを得ることができました。どうしても Web に限定した解釈をしてしまいがちなのですが、今回はそれを超えて見聞きすることが多かったように思います。
懇親会後の澤田さんのコンサートで聞いた「アクセシビリティ・ブルース〜お前の alt に首ったけ〜」をもう一度聞いて改めて「アクセシビリティ」について考えてみようと思います (笑)。
植木さん夫婦はじめ関係者の皆さんありがとうございました。イベントを終始監督していただいた板垣さんや司会いただいた北山さん、ほかにも受付などもろもろお手伝いいただいたアイ・コラボレーションの皆さん大勢いらっしゃったと思いますが、全員にご挨拶できませんでしたのでこの場を借りてお礼いたします。ありがとうございました。
来年もトークバトルするんでしょうかね… (笑)。
懇親会では最後にカラオケまで行くことができ、濃い一日を過ごすことができましたとさ。
関連記事
- ヤスヒサさん Webアクセシビリティがビジネスと付き合うための課題 : could
- みるくさん 3年連続で 「アクセシビリティの祭典」のセミナーに参加させていただきました。 – White Stage
- 稲本さん 「アクセシビリティの祭典」にこそっと参加してきた #accfes – Blog | sevenstyleweb.com
- シミズさん [AccFes] アクセシビリティについて、たとえば小さなフリーランサーができることは – トトコオルグ
- 持田さん 2017年「アクセシビリティの祭典」に参加しました | The Golden Rule
- トゥギャッター「アクセシビリティの祭典2017 #accfes」
Image by 会場から神戸港を望む