maybe that’s about inclusive design

2年ぶりに、freee の伊原さん @magi1125could のヤスヒサさん @yhassy とで Podcast 鼎談しました。

アクセシビリティ」に興味や関心を持つ人こそ増えてはきたが、「続けられるか?」という視点で見た場合、「UX」にも共通する壁に突き当たると言われています。今回はその「アクセシビリティ」というテーマについて掘り下げています。

以下が主なトピックです。

  • アクセシビリティはインターナルな品質向上でしかない
  • アクセシビリティは、障がい者・高齢者を指すのか
  • 入り口からプロダクトまでをデザインすること
  • アクセシビリティという言葉を使う必要があるのか?
  • デザインシステムとビジョン
  • アクセシビリティの成熟レベル
  • 需要と供給のマッチング
  • プロダクト単体ではなく、横断的に取り組むエコシステム

アクセシビリティはインターナルな品質向上でしかない

これは、その言葉が使われるのが、マーケテイングやビジネスの場では使われず、プロダクトデザインの場(作り手)でしか言われていないからだと思います。もし、そうした場で使われるためには、その言葉の持つテーマがマーケテイングやビジネスにおける判断材料になる必要があるように思います。

つまり、「アクセシビリティ」の話があることで、ものごとが判断・決定される場を作る、ということです。もちろんそのためには、マーケティング効果への貢献度やビジネスゴールに対する寄与度(経済合理性)が可視化される必要があります。

結果、何がよくなるのか、〈当たり前品質〉を超えて、本質的な意味があるようにしないと」と、伊原さんは話されています。これは、品質の話でしかないというボクの主張に対して「会社の活動の意義とつながっていない限り、続けていくのは難しい」とおっしゃっています。

視座が異なるので、三角形の図「アクセシビリティのスコープ」にしてみました。

アクセシビリティのスコープ
アクセシビリティのスコープ

アクセシビリティは、障がい者・高齢者を指すのか

「届ける相手がどのくらいいるのか、という話になると、分が良くない」これは伊原さんがユーザビリティと比較したときの言葉ですが、対象ユーザーを定義する場合、「障がい者・高齢者」という対象ユーザー(以降「ペルソナ」)を明確に指定するのでしょうか。

企画段階において、どういうユーザーに使ってほしいかはある程度決めると思いますが、その中に障がい者・高齢者を入れているのか、という質問です。

たとえば企画の段階で、障がい者・高齢者がペルソナに設定されていれば、その後の工程はスムーズだと思いますが、もしその段階でそうしたペルソナが検討されていなければ、必然的に(ターゲットユーザーとして)優先順位は下がります(よね?)。その場合、制作フェーズに移ってから「必要だから」とアクセシビリティ対応費を請求されたらどうでしょう? 

ボクはそこが食い違うところだと思いました。「アクセシビリティ(云々)」という前に、そもそもビジネスにおいてターゲットユーザーに当てはまるのか、またはそのユーザーを意識する必要がどの程度あるのか、という検討が必要だと思うからです。この検討が企画段階でないと、後工程でアクセシビリティの必要性を訴えたところで、タスクの追加・コスト増にしか見えないと思います。

入り口からプロダクトまでをデザインすること

「視覚障がい者のパソコン教室に行ったりすると、実態はわかるが…」という一方、「その方たちにどう(プロダクトを)届けたらいいのか実はあまりよくわかっていない」という正直な話がありました。特定のユーザーにどう届ければいいのか、はマーケティングの話です。

ヤスヒサくんいわく「(アクセシビリティの文脈において)入り口からゴール(デジタルプロダクトを使う)までの道筋がまだないように見える」というのは、まさしく〈アクセシビリティの話〉だと思いました。つまり、どういう人がそのプロダクトを知り、使い、生活が豊かになるのか、というストーリーを描くこと、そのためのコミュニケーションが必要になること、そしてそれはプロダクトだけの話ではないことが浮き彫りになりました。

アクセシビリティという言葉を使う必要があるのか?

「アクセシビリティ」と言った場合、健常者も含めた広義な意味でボクはとらえていますが、そう考えれば考えるほど「アクセシビリティ」という言葉をわざわざ出す必要がないように思います。これは「IA」にしても「UX」にしても通じる話で、結果にどう貢献するのかという文脈でないと、マーケティングやビジネスの場では話が通じないからです。もちろん途中成果物でしかないという共通点もあります。

「結果、プロダクトのアクセシビリティが向上した」ではなく「アクセシビリティを検討したから、ビジネスにこう貢献した」であるべきだと思います。

そのうえで、アクセシビリティを広義な意味でとらえると、〈単にそういうユーザー〉ということですので、そういうユーザーがペルソナに設定されていれば、ペルソナに使ってもらおうとするマーケティングの話でしかないですし、ペルソナに入っていなければ、優先順位は下げるという話でしかありません。いたって普通のビジネスの話です。

もし、ペルソナとは別に、障がい者・高齢者を考えましょう、という話であれば、それはビジネスの話なのか社会貢献の話か漠然としてしまいます。「なぜ?」という必要性と「どうやって?」というタスク・コスト増に対する解がなければ、話にならないからです。

デザインシステムとビジョン

伊原さんが freee の活動について「デザインシステムの中に、品質としてのアクセシビリティを含んでいる」という話がありました。「プロダクトをまたいでも一貫したデザインが提供できるようにしている」ということでしたが、このデザインシステムにアクセシビリティというテーマを含むことが、デジタルプロダクトの品質向上につながり、結果として届ける人(恩恵を受ける人)が増えることにつながる、という趣旨の発言が印象的でした。

その品質だから、届けられる人が増える、結果として、社会の多様性が増すことにつながる。

伊原さんは freee という会社のビジョンとアクセシビリティとをつなげることができるのではないか、ともおっしゃっていました。つまり、業界におけるビジョンを立てて、それに基づいて取り組んでいる、という。

アクセシビリティの成熟レベル

「UX」にしろ「MaaS」にしろ、どの程度成熟しているか、という評価の仕方があります。UXの場合は企業が対象(UX成熟度モデル)ですが、MaaSの場合は都市が対象(MaaSのレベル)です。

アクセシビリティの成熟レベルというと語弊があるかも知れませんが、伊原さんからこのような言葉が出るのは、ある意味、社会における会社のビジョンとアクセシビリティの活動とがつながっている証拠です。つまり成熟度モデルでいう「やる理由がわかっていて企業として投資している段階」という段階にあたります。

「UX成熟度モデル」から「UX」を削除して、図「アクセシビリティ成熟度レベル」にしてみました。

アクセシビリティの成熟度レベル
アクセシビリティの成熟度レベル

需要と供給のマッチング

アクセシビリティは、やろうと思っている制作会社と発注会社が結びついていない問題があります。この両者と、エンドユーザーとを重ね合わせたところをマッチングしたところと定義すると、この三者のトライアングはまだまだポテンシャルがあると見ることができます。

事業会社の場合もある程度は同じ図「アクセシビリティのステークホルダー」になると思います。

アクセシビリティのステークホルダー
アクセシビリティのステークホルダー
  • 制作会社: 会社のビジョンとも呼応した活動としてアクセシビリティに取り組んでいる
  • 発注会社: アクセシビリティを検討することで、ビジネスに貢献する(潜在ユーザー数が増える)
  • ユーザー: アクセシビリティの問題があることで、使いたくても使えないことがある

制作会社から発注会社に対しては、「売る」「売り込む」という発想が少ない問題があります。そのため「儲かる」「コストカットになる」などの明確な価値を伝えるアプローチが必要です。もちろん、プロダクトの品質向上から潜在ユーザーの掘り起こし(ターゲットユーザーの拡大)まで一気に進めるのは難しいため、ステップが必要になります。

また、ユーザーから制作会社へは「こういう問題がある」という情報開示が重要なトリガーになり得ます。#vojp」「#tbjp」などは一例になり、特定のプロダクト利用状況への理解をする必要があるかと思います。そのためには「UXリサーチ」が有効だと思います。ウェブサイトやITシステムの構造的な欠陥がどの程度機会損失を生んでいるのか数字で示せると強いと思います。

プロダクト単体ではなく、横断的に取り組むエコシステム

MaaS の事例を踏まえると、1社や1プロダクトで解決できない部分を、横断的に見ることによって相乗効果を上げようという取り組みは、ある意味取り組みやすいアプローチだと思います。

MaaS の場合は、目的地に対する交通手段のシームレスなつながりですが、アクセシビリティの場合には、デジタルプロダクトをとりまくネットワークを最大限に活かしてシームレスな体験のつながりを描くことで、社会としての相乗効果が得られるという視点です。

つまり、「アクセシビリティ」におけるエコシステムが描ければ、ペルソナとして特定プロダクトの企画段階で設定されていなくても、より広義な貢献対象として業界や社会に対する取り組みとして可視化しやすいということです。簡単な例が、中小企業や商店街などになるかと思います。つまり、1社で検討することではなく横断で検討することだということが明示的に見えれば、(同じ業界や同じ分野の)他社も取り組んでいるので(自社も)取り組むという構図ができあがります。

「アライアンスを作りやすいのが、ウェブとかデジタルの強み」とヤスヒサさんが言っていましたが、まさしくそうだと思いますし、アクセシブルにするということは、みんながつながるということだと思うので〈みんながつながる前提で考える〉という視点があるといいと思いました。

まとめ

ものすごく長文になってしまったので、簡潔にまとめてみます。

  • アクセシビリティの意味するところに、障がい者・高齢者への対応を特別に取り上げることがある。
  • ただし、一般的にはデジタルプロダクトの品質向上と潜在ユーザーの獲得を指すことと理解することができる。
  • いずれにしても、企画段階で検討していなければ、後工程では対応しにくい(コスト増にしかならない)。
  • 企業としてアクセシビリティに取り組むためには、継続的に取り組む価値があると社員に明示されている必要があり、かつ共感を生むものでないと難しい(つまりビジョンにも通じる取り組みでないと難しい)
  • なぜなら、アクセシビリティに取り組むということは、1プロダクトや1企業が個別に取り組むテーマではなく、分野や業界、社会という、企業どうしプロダクトどうしが横断で取り組むテーマだからである
  • ビジネス貢献や経済合理性を求める見方は否定しないが、その目的には社会貢献を意図するところが大きくある。
  • それはつまり「インクルーシブデザイン」について話していることを、あとで気づきました。

以上。

7月20日に開催する「Japan Accessibility Conference digital information vol.2」に参加できないので、ぜひこのあたりも議論してもらえると嬉しいです。

Image by 「DiDi」による配車サービス

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