前回の記事に続き、久しぶりにヤスヒサさんと話した #automagic ポッドキャスト「#247 デザイン / デザイナーって言葉がブレまくりですよ」 で話したことをまとめておきます。
背景としてあるIT業界から事業会社に移ったことについては、昨年末の記事「Playback 2018」でも触れているので、そちらを参照ください。
デザインに対する理解とギャップ
少し前に「決済の場にデザイナーがいるべき」「デザイン出身者がリーダーシップをとるべき」などという記事が流行りましたが、これには大きな誤解がつきまとうと思いました。
「デザイン」と言った場合、2つの側面があると思います。
狭義: 装飾や造形(例: UIデザイン)
広義: 事業戦略やマーケティング(例: サービスデザイン)
記事で指す「デザイナー」とは、広義のデザインに責任が持てる人であり、一般的には部長クラスだと言えます。これを同じデザインでも「UIデザイナーが…」と受け取ってしまうと、大きな誤解が生まれると思います。
何の心配をしているのかわかりませんが (汗)。
ひとくちに「デザイン」と言った場合に、それが示す範囲や理解のされ方はずいぶんと異なるということです。環境が変わったことで(かれこれ20年以上「デザイン」という言葉を使って生きてきた自分が)改めて理解することができました。
ミスマッチなデザイナーのキャリア
その違いがわかりやすいのが「サービスデザイン」という分野についてだと思います。
例えば「デザインを学ぶ学生」と言った場合、どういう印象を持つでしょうか。今の学生が学ぶ「デザイン」とは「サービスデザイン」から始まります。コンサルティングファームのデザイン活動に近いものです。事業性やリサーチを経て作られるアイデアは、デザインというより企画と言ったほうが一般には伝わりやすいと思います。
先のデザインの側面で書き分けると、こういうふうに見えます。
学生のデザイン理解: 広義なデザインから創造活動全般を指す
企業のデザイン理解: 狭義なデザインで専門職域を指す
ここに大きなギャップが存在するため採用が上手くいかないということになります。採用したけど続かなかった理由もこのギャップが少なからず影響していると思います。
学生や若い人は、広義なデザインを学ぶ機会はありますが、雇用する企業側は広義なデザインを理解する機会は少ない。結果、そうしたデザイナーのキャリアパスが見えない状態に陥るというわけです。
「デザイナーって言わないほうが、実はやりたいことできるんじゃないか」とヤスヒサさんは言ってましたが、そう考えても不思議ではありません。
デザインの言語化
一方で「UXというものが、プロダクトと結びつけなければ、価値はわかりにくい」とも言っていたのが印象的です。つまり「カタチにしないと伝わらない」ということだと思いますが、先述したデザインに対するギャップも加えて痛いほどよくわかります。
そしてさらに難しくしているのが、ポッドキャスト内で何度も出てきた「デザイナーは言語化がうまくできていない」という問題が挙げられます。
実は、デジタルプロダクト(アプリなど)を開発する場合、目的が明確な場合が多いと思います。たとえば「なぜそのUIにするか」はUIデザイナーは説明できるはずです。それはビジネスやマーケティングに基づいているから、とも言えます。いわゆるアカウンタビリティ(「なぜそうするか」を説明できること)が高いと言えます。
対して、アナログプロダクト(自動車など)はどうかというと、アカウンタビリティが低いと言えます。「なぜそのカーブにするのか」は説明しにくい。さらに、そのカーブにすることでビジネスに寄与するかどうかは予測することも難しいです。
製造については、開発期間が長いことも理由に挙げられます。マーケティングとデザインの検討時期に物理的な時差があるため、デザインで「なぜそのカーブにするか」がマーケティングのそれと直結しません。したがって、販売後の結果でもそれを測る対象にはならないという皮肉な関係性を持っています。
そうすると、ビジネスやマーケティングに直結しないデザイン活動の拠り所は、自分たちのインスピレーションだけになります。
であるならば、装飾や造形の根底にある「顧客にどういう体験をしてほしいか」というエクスペリエンスデザインを指針や方針に据えるべきだろうと考えます。
エクスペリエンスを可視化、言語化することで価値が伝わりやすくなるのではと思います。
現場の価値観とアクティビティ
仮にそのデザインが、ビジネスやマーケティング、エクスペリエンスデザインにまったく触れずに語られていたら、狭義のデザインについての話をしていると思って間違いありません。
学生のデザイン理解として例えた「広義なデザインから創造活動全般を指す」の視点でそれを聞くと、きっとデザインの説明になっていない(アカウンタビリティが低い)と感じることでしょう。
そもそも、そうした意見がよく見られるのは、その組織や現場環境においての価値観がそうなっているから、と見るほうが自然です。つまり評価の仕組みのほうに原因があると見ていいと思います。
なので、1デザイナーの意見でそうした価値観を変えようと思うのは非常に困難なため、現場に求められる評価についてリーダーと話すのがよいかと思います。
そのうえで、自身が持つ価値観については、現場とは別のアクティビティで表現する、もしくは情報発信するといった活動がまわりからの評価にもつながっていくと考えてよいかと思います。
長々とまた書いてしまいましたが、後半の「モビリティ」については、次回書いておこうと思います。
Image by Apple Pudong (Apple 浦东)