「それは、ライブ配信にする必要がありますか?」と思ってしまうことはありますか? 逆に、クライアントからそう指摘されたことはありますか? きっと映像コンテンツにお詳しい方であれば、その切り返し方もよく心得ているとおもいます。
先日の稲本さんとの対話のつづきになりますが、最近ライブ配信をする機会は増えてきたのですが、「なぜライブ配信なのか?」についてきちんと考えたこともなかったので、この機会に整理してみようとおもいます。
「映像コンテンツ」といってもこの場合、セミナーなどのイベントを指しているのですが、それをライブ配信するほうがいいのか編集後に配信するほうがいいのか、といったあたりについての整理です。
だいぶ言葉が錯綜してきそうなので、まずは言葉の意味を整理しておきます。
配信方法
- オンライン配信 = インターネットを使って配信すること
オンライン配信の種類
- ライブ配信 = リアルタイム視聴 = 編集しないで配信すること
- オンデマンド配信 = アーカイブ視聴 = 編集して配信すること
ライブ配信の利点
ビジネスにおいて「オンラインイベント」と言う場合、「Zoom」などを使いライブ配信する場合が多いとおもいます。技術的によくわからない方には「ビデオ会議」を一般向けにもオープンにした状態をイメージされるとよいかとおもいます。
イベントにリアルタイムで参加することで、ディスカッションに参加できたり、その場でアンケートに答えたりといった相互作用が利点のひとつかとおもいます。
また、ライブ配信用のプラットフォーム(Facebook Live や Youtube Live 等)を使っている場合、後から視聴できる場合もありますので、ライブ配信を見逃しても後から視聴できるという利点も加わります。
ライブ配信の利点
- 視聴者とのリアルタイムの相互作用(チャット等)
- 即時性・即興性あるコンテンツ
- 長時間配信に向いている
- 制限時間内で見ることができる
オンデマンド配信の利点
- 情報や問題提起などワンウェイ
- 高品質コンテンツ(優れたグラフィクスなど)
- 短時間配信に向いている
- いつでも見ることができる
そうすると「オンラインイベント」とは、ライブ配信とオンデマンド配信の両方を兼ねていると見ることもできるため、実は「ライブ配信」と言っている場合のほとんどは、ライブ配信されたものを後から視聴しているという場合も少なくありません。
実際に視聴回数だけで比べてみても、後から視聴する人のほうが多いことはほとんどです。
コンテンツ特性の違い
そうすると、そのコンテンツの特性やその参加者属性にも違いが生まれてくるようにおもいます。一般論で書いてみます。
ライブ配信(視聴回数)が多い場合:
- 鮮度あるフロー系の情報提供やその場だけ体験価値がある
- 今見ないと乗り遅れてしまう義務感を持つアーリーアダプター
アーカイブ配信(視聴回数)が多い場合:
- ストック系の情報提供や知識習得などのノウハウ
- あとで見ればいいや的発想のレイトマジョリティ
たとえば、キャズム理論の図に重ねてみてみると、アーリーアダプターは全体に対して絶対数が少ないわけですから、ライブ配信を見る人はアーカイブ配信を見る人に比べて数が少ないのは当然のことです。
とすると、そもそもライブ配信をしなくてもアーカイブ視聴だけで成立するのではないか、という疑念(仮説?)が浮上してきます。ビジネスにおいては手間をなるべく省きたいわけですから、その気持もわかります。ただ、この仮説は大きく間違っているとおもいます。
当然ですが、アーリーアダプターが利用している〈質〉だからマジョリティ層も利用するという市場原理がありますので、アーカイブ視聴だけにした場合、アーリーアダプターが反応するモノがない状態になり、その後のマジョリティ層も反応がしづらくなります。
つまり、ライブ配信とアーカイブ配信はセットで考える必要があり、それぞれの参加者属性は異なりますが、時系列として、波及するという意味においては、それらはつながっていると見るほうが自然だといえます。
編集の価値とは
山下達郎さんの発言について書かれた「インターネットによるライブの生配信は「幻想」です」に書かれている、いわゆる品質に対するこだわりについては、ライブ配信とオンデマンド配信における編集の価値にも通じるところがあります。
この記事の冒頭で、編集しない「ライブ配信」と編集する「オンデマンド配信」と書きましたが、単に、編集する・しないだけではなく、そもそも編集の種類が違うのではないかと考えるようになりました。それは「Co-Creation(共創)」という視点です。
オンデマンド配信における編集 = 作り手の価値観でつくるもの
ライブ配信における編集 = 共創の価値観でつくるもの
オンデマンド配信であれば、配信するまでの間に収録したものを編集し配信者の納得した状態で配信を開始することができますが、ライブ配信の場合は、配信者の想定しないことも含めて配信されてしまいます。その代わり、参加者同士のディスカッションや速報などの情報提供が可能になります。
これをもし企業からの依頼で配信しているとするならば、関係者が思ったとおりの状態で配信することができるオンデマンド配信のほうが圧倒的に安心です。
ノンフィクションとは
さてこれを、作り手の価値観としての「作品」という観点で考えてみると、フィクションとノンフィクションの違いにも共通するようにおもいます。見る人にとっては、完成されたフィクションを好む場合と、ノンフィクションを好む場合とに分かれることがありますが、それと似ています。
映画のように完成された作品を好む場合は、後世までつづいてほしいもの、残しておきたくなるもののような気がします。つまりストックです。反対に、ドキュメンタリー番組は、今起きていることを自分でも感じたい、その場だけで後には残りにくいもの、つまりフローです。
ノンフィクションの良さは、新規性・創造性・即時性・偶発性など、虚構を加えないことによる真実性、リアリティがあることではないでしょうか。
もし企業からの依頼で配信する場合、そうしたキーワードと親和性がない取り組みの場合や、配信するコンテンツとの親和性がない場合には、ストックだけで考えるほうがいいのかも知れません。
「配信セミナー・テクニック」セミナー告知
ということで、こんなことをツラツラ考えているのですが、9/24 にロクナナのオンラインセミナー『配信セミナー・テクニック』に登壇することが決まりました。
このブログで書いていることはもちろん、先日の24時間ライブ配信マラソンでの環境の話、ツール類や機材など、コロナ禍でどういう経験を自分がしてきて考えているか、についてお話しします。
Udemy や Youtube などで常に発信されている H2O space の谷口 允さんとともに登壇するのたいへん心強いです。お時間ゆるす方はぜひご参加ください。
ちなみに、録画版の申し込みも開始しておりますので、アーカイブ視聴できます。